白雨/itukamitaniji
 
白雨

最初の一滴が頬にはじけて しまった、と思った
それから間もなく 街は音に飲み込まれていった
僕は慌てて逃げ込んだが もうすでにびしょ濡れで
傘を差して歩く人を うらやましく眺めていた

ぽつぽつと白雨は 夕方の街に降りはじめた
その一滴一滴に 街の風景を繰り返し閉じ込めて

どうやら抜け出すタイミングを 見失ったみたいだ
空を睨みつけて 完全に立ち尽くしてしまった


傘を持たずとも 勇ましく歩く人を遠くに見つけた
その人が僕に向かって 何か言葉を叫んでいたけど
何を言ってるのか 音にかき消され聞こえなかった
その姿は いつかの僕に似ているような気がした
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