売買/葉leaf
まかり通っていたのだ。だが、人間の感情は相手に利益も不利益も与えることができる以上、判例の集積によって適当な金銭の額に換算することができるようになり、感情のやり取りにおける不平等はすべて金銭で速やかに解消されるようになった。人は感情を売買するのである。
もちろん、これは厳密な意味での売買ではない。本来売買契約というものは相互の意思表示の合致、つまり両方が承諾したうえでなされるはずのものであって、一方的に愛したり憎んだりするときに売買契約が成立しているわけではない。だがそこに契約の成立を擬制するということが画期的な法改正だったのだ。
今や人間の感情の種類や量や相手は正確に計測できるようになってい
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