月への軌跡/香椎焚
 

(即興1)

一編の詩を絞り出して一杯のオレンジジュースを飲み
コートを羽織って散歩に出ると
何故か月はいつでも山の端ぎりぎりのところに飾ってあった
研ぎすまされて
あまりに細く
落ち着き払った爪跡だった

随分ご無沙汰だった友達と行き違い
冷たすぎる今日の夜風にお互い声もかけぬまま
少しの間隙ののち振り返るとそこに月の画はない


(即興2)

悪戯に覆う雲が私を試すのだろう
嫌味に笑って光だけが洩れる物語の夜
つまりはあの月が偽物である


(即興3)

まあるい月の夜は
気を付けた方がいい
実は覗き穴なのだ
知っていたかい?
あの穴を
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