憧れの土地/Lucy
憧れの地を目指し
長い旅に出たはずだった
針葉樹林が空を突き刺し
波頭が眠たげにまばたいて
気球に乗った少年が
スローモーションで手を振っていた
漂う筏に寝そべって
分厚い書物を読みふける人も見た
見上げると
成層圏の気流に運ばれ
さく裂した瞬間の完全な球体で
通過する花火
まだ小さかった子どもに
私はそれを見せたかった
しかし声をかけ指さした時には
ちりちりと震える冬の星空だけを残し
とうに視界を去っていた
羊を追う人と出会い
やわらかな酒を酌み交わすことはあっても
胸の奥のコトバはいつでも
結晶する前の食塩水で
どろどろと辛く
発語する前
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