あくがれ出づる/藤原絵理子
 

虫の音が止んだ
誰かが あたしの名を呼んだ
そんな気がして 振り返る
杉木立の陰から 雌鹿の目が見ている


闇の中に去っていく人に
かける言葉は いつも
木枯らしに引き摺られて 壊れる
篠懸の枯れ葉に 重なる


暖かくやわらかな寝床に ほっと
横たわった時でさえ 憐れにも
心は あなたに向かって翔び立とうとする


水占の溜まり水に 紅いしがらみが
重なって沈んで ぼやける
零れ落ちた涙の波紋は 秋風に

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