螺旋/wakaba
 
終わりのない螺旋階段の中腹付近に到達しようとしていた頃、胸ポケットのハイカララヂオから途切れ途切れの雑音が流れ始めた頃、故障ではないかと思い左手で取り出して陽光にかざし全体をまんべんなく眺めていた頃、突如螺旋階段の上の方からけたたましい音を立てながら謎の老婆が転がり落ちてきた頃、避けることもままならず正面から激突して気を失いかけた頃、衝撃で吹っ飛ばされたハイカララヂオから妙に聴き覚えのある高音質の不協和音が流れ始めた頃、骨折した鼻の激痛を我慢しながら両目をなんとなく空の方向へぐるんと廻してみた頃、青過ぎてギトギトしてる今日の空模様がラヂオの不協和音とマッチングしているように思えて何故か少し笑みを零してしまった頃、そこらかしこがでこぼこにへこんでいるさっきの老婆がよく見ると僕の初恋の人だったことにようやく気がついた頃、僕もまた螺旋階段をけたたましい音を立てながら転がり落ちていくのでした。ハイカララヂオの不協和音の音に合わせてリズミカルに転がり落ちていくのでした。
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