シネマの日々/服部 剛
朝起きて、のびをして
飯を食い、厠に入り
玄関のドアを蹴っ飛ばし、
彼の一日は始まる。
日は昇り、やがて暮れゆく迄の間を働いて
単調なる繰り返しの、気怠さの…
口をへの字の忍耐の(時折しょっぱい、涙の)
色もとっくに褪せちゃった
日常というものを
『もう一歩』――掘り下げて
低い目線のカメラで、歩めぬものか。
もし、一日というものが
モノクロームの絵巻なら
幾重もの場面々々の只中の
シーン? の一隅にでも
手にした絵筆で
蛍光色を塗ることは、できまいか。
カメラのレンズ越しに
絞り…絞り…フォーカスする
軒先の庭をそそと往く(一匹の蟻)に宿る
小さな奇跡を見出すように。
映画監督の視力で、彼は立つ。
むっと睨む視線を芯にして――尖らせ
素朴なる風景に、穴の空く迄。
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