命懸けの飛行/水素
笑ってしまう。
一週間以上前から羽虫と格闘している。
いや、一ヶ月以上前だったか?
三ヶ月以上?
はあ、そんなに……。
最初は敵だった。何匹もいた。
採ってきた葡萄や林檎を、南国から運ばれたバナナを、
カカオを砕いたチョコレートを、一緒に戴く無花果を……。
共に嗅いだ、期待した、夢を見た、希望を得た。
いつの間にか退治され、あと一匹。
飛ぶ姿は熟練され、エースパイロットの面影。
まさか、僕が手を叩く瞬間、上昇気流で逃げたのか?
僕を使って逃げたのか。
それは、また……。
凄いな。
なかなかの腕前だ。
では、こうしよう。
僕の力で君を落とす。面白いだろう。
殺虫剤は無しだ。僕には発明できないからね。
紙を丸めて叩くのはどう?
それとも、手を使って。
見つけた。
接近は簡単だ。
なのに当たらない。
よく見ると、複雑な軌道で飛ぶ。
これは、避けてるのか、君……。
ふと、笑ってしまう。
そうさ、きっと彼は命懸け。
僕は……。
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