チューしてあげる/島中 充
を握った手が、いっせいに挙がるだろう。かちどきのように、謝れ、謝れ、と挙げられるだろう。その上、ケイコやぼくを知らない先生や生徒は、この学校にほとんどいない。職員室で、運動場で、廊下で、あのれき岩がケイコをなぐった。ケイコをなぐって、あやまった。この事件はすぐに広まって、ほかの学級の先生がぼくを見つけると近寄ってくる。どうしてなぐったのかと、耳もとで、ここだけの話だから、その秘密を教えて、小さな声で尋ねるに決まっている。そして先生から、ここだけの秘密は、ああだ、こうだ、と学校中のうわさになり、PTAまで知るようになるだろう。お母さんもすぐに耳にするだろう。お母さんもオンナだ。オンナをなぐるとはなん
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