【HSM参加作品】狂気の時代/イナエ
 
隊さんが続けた
 「ここに弾を入れて ドカーン」
 「でも…これ木でしょ?」思わず聞きかえした
これはまずいぞ と言う声が渦巻き始め 
ぼくはスパイじゃないよ と付け加えたくなっていた
が、兵隊さんは ぼくの不安に頓着なく続けた
 「だから 秘密兵器」
周りの兵隊さんたちが ふふんと笑った

その夜 どこで仕入れたか父は
「広島にとんでもない爆弾が落ちたらしい」
と押し殺した声で母に言っているのを聞いた

数日後 大工小屋からは
兵隊さんたちの姿は消えていた
 いよいよ本土決戦が始まるのだな
壁際に整然と積まれた木材をながめると
 後は お前たちが引き継ぐのだぞ
兵隊さんがそう言っているような気がしてきた

 その日 
 戦争が終わったことをぼくは知った
 本土決戦も行わないで…


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