通勤電車/葉leaf
電車に乗ると山が見える
起きたばかりの汚れのない視線は
くっきりとした稜線を山と共に描く
この人の多い車内が
あの山の頂上へと静かにつながっていて
何物かが常に往き来している
その気配が濃密に立ち込める
電車に乗ると雲が見える
この街には老人が多くて
これから私も老人になっていく
その先にはきっとあの雲になって
新しく生まれるものを祝い続ける
老人の乗客は既に雲の装い
空高く人生を俯瞰している
電車に乗ると空が見える
車窓の風景には緑が多くて
この緑は空の青が醸成されてできたもの
これまで破れた夢や理想
みんな空へと打ち上げられて
やがて十分熟したうえで
庭木の葉の色として降りてくる
昨日失ったものを空に投げ捨てて
この通勤電車の車内で今日が始まる
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