書きなずむ/伊藤 大樹
 
霧のような過去がやがて…
と書きなずんで
外は雨
部屋にはキムチの匂いが充満する

ひとたび止まってしまえば
ふたたび歩きだすのは至難
ぎこちなく一歩踏みだそうとすれば
体についた花を振り払おうとした舎利弗のように
無様に愚かさを晒してしまうだろう

しずかにワルツが打たれ
雨が窓をたたき
霧のような過去がやがて…
と書きだして
ふと立ち止まる
その不意のやさしさに思わず涙ぐんだりする
戻る   Point(1)