ココアの香 #4/うたひと
 
トレーの上にはホットココアが2つ並んで運ばれてきた
「おまたせしました、ホットココアです」
君の目の前にはココア
僕の前にもココア
2つのココア
君は一瞬なつかしい顔をして
ココアのカップを大切そうに両手で包み込んだ
ココアの香りを楽しんでひと口

目の前の君は立ち上がって僕の隣へきた
そして君は僕の肩へ頬を寄せた
君の大きな瞳から大粒の水玉がポトリポトリと止めどなく落ちてきて
僕の肩は君の涙で染まってゆく

僕は小刻みに震える君の細い肩を抱き寄せた
「気が済むまで泣いていいんだよ」
君は かすかに うなづいた

その時
僕は男で
君は女だった

2つの
暖かいココアからは
2つの
白い湯気がゆれていた
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