夏を流れている季節/伊藤 大樹
 
見知らぬ国土に降る雨に
静かに碇を下ろし
羽ばたき続けた海岸線に
音もなく見下ろしたあの井戸はもうない
いのちを前にして
ねむることの素朴さを語っている
おまえを愛し
おまえに欲情している

ねむることの出来ない時間を見送り
あれはおそろしく深い青
汲んだことのない心の奥底に沈んだもののひとつ
おまえの中で燃えている石がある
ねむることの出来る昼に
わたしは愛され
おまえは欲情している

霧立つ今日に思い出されるひとつの質量
愛した背中がここにはある
欲情した小壜がここにはある

湖水から眼下まで永遠が降りてきて
季節が忘れた夏を流れている
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