Di/stance/角田寿星
 
転手
は高額な医療費の賠償を支払うよりも殺人者となることを自ら選ん
だ。
われわれのなかには救急医療の専門家もいた。その眼前で実際に起
った出来事である。


「しあわせ ってね さむくないこと。それからおなかがすいてな
 いこと。」
きょうも愛を知らずに子どもがどこかで死んでいく。物乞いをする
ために腕や脚をへし折られる。不治の病で保護器にはいったままレ
スピレーターが回っている。泥水をすすりながら糞便にまみれてぐ
ったりと母の腕に抱かれる。振り上げられた拳に頭と腹をおさえる
がそれでも容赦ない体罰はいつまでも続く。生きたまま丁重に肝臓
腎臓角膜を取り出され残りは豚のエサになる。小ギレイな服を着た
のも束の間すべて脱がされてありとあらゆる穴にペニスを突っ込ま
れる。
「しあわせ ってね さむくないこと。おなかがすいてないこと。
 それからだれかがそばにいること。」
ぼくは君たちのことを思い続けよう。顔も名前も知らない会ったこ
ともない君たちのことを。ぼくは君たちのことを思い続けることし
かできないけれども。

  今は。


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