驟雨/藤原絵理子
一晩で覚めた酔いは 何も残さず
それなりの仮面を被って 朝の光にびくともせず
生活者としての仕儀で 感謝されてみたり
立派な人間は そもそも詩を作ったりしない
後ろめたさを糊塗する 気弱い心が純粋持続を
渇望する 名のある哲学者の権威に寄寓して
現実を斜めに見る 覚めた目で 外界を
欺いている 縋るような目で見上げる人々を
あたしが踏み潰した 蟻まみれの蝉の死骸を
まん丸い目の鴉が 咥えて飛び去る
坂道の途中で 蝉時雨 額に汗が滲んで
雨に増水した濁流を 発泡スチロールの舟に乗って
鳴きながら流れ下っていく 捨てられた仔猫を
為す術なく見送る自分を 肯定している
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