窓の外/いとう
お久しぶりと
声をかけると
愛人は
この愛人はとてもよくできた愛人なので
泣いたり駄々をこねたりせずに
お久しぶりと
笑ってくれる
「連絡取れなくてごめんね。元気だった?」
「私はいいのよ。あなたこそ大丈夫?」
いつものホテル
いつもの部屋
今日の愛人は
喪服を着ていて
僕たちは言葉少なく
窓を眺めている
外ではなく
窓を眺めて
今日はたぶんSEXしない
「喪服ありがとう。とてもうれしい」
昼下がりのホテル街は
あたりまえなのだが
車も人も
もうしわけ程度で
静寂には慣れていたつもりなのに
涙が少し
僕は妻をとても愛
[次のページ]
戻る 編 削 Point(11)