ヨットハーバーと小さなアルバム/オダカズヒコ
 
ことに
こんなにも深い甘美な 孤独を感じることはなかった

逗子駅前は とても明るくって
コンクリートの真下に 埋められた地面の熱気が
街をムッと包んでいるような気がした

そんな春に 彼女と聴いた
カーラジオから流れてくる
DJのくだらないおしゃべりも流行の音楽も
今は記憶の切れっ端として 残っているだけ

彼女と出逢ったのは
ぼくがまだ青年期の暗いトンネルを
抜け出したばかりの
25歳
ふたりの間にはいつも
絡みつく舌の
濃厚なキスのような 会話があった

いったいあの頃 あの時
その日その一日を 彼女とふたりで
どうやって生きていたのか わからないほどに
思いだせないほどに

夢中になって何かを抱きしめようとしていた
指先や両腕の 強い抱擁だけが
そこにはあったような気がした

胸の一番奥に 大切しまい込まわれた
決してひずませることのない
心の中の小さなアルバムだけが ぼくの心の中に残り
今にも
動き出そうとしているかのようだ
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