ヨットハーバーと小さなアルバム/オダカズヒコ
 
ハーバーから出て行く
ヨットの数がたちまちに増えていく春
その背泳ぎのような船の航行に
季節の匂いがする

昼ごはんを食べ終えたマチコが
海を見たいといった
ぼくは灰皿を取り替える
ウェイトレスの赤いマニュキアに目を走らせ
それからマチコのスッピンのままの
唇に目をやった

ショートケーキの生クリームが
彼女のほっぺたに付いている

いまはもう想像もしない
明け方の彼女の寝息とその横顔
ベットサイドの窓際で
東から登り始めた 陽の光だけを頼りに
読書するぼく

ベットに横たえる
彼女のからだ以外に
馴染める存在がいない こんな朝
ふたりきりでいること
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