入道雲/藤原絵理子
 

遠い夏は旅の果てにある 汽車が鉄橋を渡って
青い駅に着いたら スカートを翻し
湧き上がる雲を見上げて 目を細める
見慣れた飛行機雲が 交差する


引込み線には 背の高い雑草が風に揺れる
何かを避けるために 逃げ場を探して
錆びたレールは ほっと一息ついている
少年が虫取り網を振って トンボを誘う


あたしの知っている夏は
少年だった祖父が怯えた
機銃掃射と爆弾の夏とは違っている


もう今は 昔ではなく
瓦礫と死体は 綺麗に整理されて
彩色された風景は くっきりと濁っている

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