その木を切らないで/みもる
乾いた風に刻まれて
ひび割れた唇は
冷たい鉄の味がする
樹液で貼り付けられたように
言うことを聞かない両足
遠い国で起こった悲劇で
消えていったものの軽いこと
目の前で起こった悲劇で
消えていったものの重いこと
当事者も傍観者も
ひとつになれたらいいのに
ある日突然
ボッキリ折れた太い根っこ
供給されなくなるエネルギー
終わりたくても終われず
枯れたまま無様に立ち続けるだけ
何年も
永遠に
それでも意味はあるだろうか
少なくとも消えてしまったものよりは
動かなくなってしまったならば
動かさなければいい
何にも臆することなく
何にも興ずることなく
その白い目で
遠くだけを見て
腕が折れても
足が折れても
首が折れても
立ち続ければいいさ
全てが風に乗って消えるまで
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