夜の山道(二バージョン)/山人
 
 

一、
草は静かに闇の中、葉に露をまとい、一日の暑さを回想している。
ヘッドランプのあかりに照らされた、それぞれの葉のくつろぎが、私の心にも水気を与えてくれる。
闇は静かに呼吸していた。
その息が葉を動かし、それぞれの露がほころんでいる。
 
日中、病的に鳴き叫んでいた狂い蝉の声もなく、皆それぞれの複眼を綴じ、外皮は動かない。
ときおり、谷に近い場所でキョキョキョとヨタカの声がする。
闇を食い、大口を開けて虫をさらいこむ。

うっすらと下界には数々の明かりが見える。
厳かな団欒を過ごし、それぞれの家族がそこで暮らし、命の脈音が、不確かにぼんやりと発光している。


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