山のあなた/本木はじめ
 

苔むした岩の合間をすりぬけて水の流れる音だけを聞く


遠方に見える山々ふもとにてぼくの知らないひとが微笑む


樹下の影ひっそり咲いたたんぽぽのやはりひっそり枯れてゆく山


花見とかしたいねさくら満開のどこかの山のきみの近くで


真上から見下ろしている水田の牛の鳴き声だけは写せず


水車小屋きしむ柱に寄り添って遠い今夜を語るのだろうか


紫陽花の色の変化を克明に記したノートが色褪せている


ぼっかりと浮かんだ雲の彼方まで流れゆくまで見送った冬


田園の側に咲いてる向日葵が山の灯台あなたを探す


あの雲が何に見えるかアマガエルおまえのひとみが映すぼくたち


落下して潰れた柿の実ひとつでわたしはあなたについてゆきます


むらさきに染まる峰々うさぎくまきつねきつつきおやすみあなた


いくつもの雲くぐりぬけ終にわれあなたの山の内側に澄む




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