ユートピア/竹森
 
そらと呟けば見上げる空が見上げる 空に泳ぐ魚の話を
まるで前世の記憶を辿るようにたどたどしく話してくれたね
チェックの花柄のツーピースを心に描こうとした瞬間
チェックの花柄のワンピースを攫うように羽織ったナナは
乳酸菌の海で溺れていた
それはまるで人から人へ語られるほど美しくなっていく
伝説の人魚の髪のなびきかた

話せば話し伝うほど抽象性を増していくそれを 美しさと定義しよう
蝋燭の灯を吹き消した吐息で叩いたルーブルの扉
ナナがくたびれた紙幣と交換した折り目ひとつないチケット
それは手に入れる為でなく眺める為に必要なチケット
盗聴器の仕込まれたスマートフォンにそっと耳を
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