静かな午後に/藤原絵理子
風だけが 通り過ぎていった
時計は止まったまま ベッドの上に
白い部屋の窓辺に 深紅の薔薇が
赤い影を落とす 花瓶の陰で
黒猫が身を伏せて 狙っている午後
死んだ蜂の羽が虹色に光る じっとして
触角は安らかに曲がって 中途半端に宙へ
光の反射に猫の目は ふてぶてしく細くなる
ふと気まぐれに風が 蜂の体を転がす
猫は跳びかかる しなやかに
止まっていた時計が 動き始める
柔らかい肉球に 踏み潰されて
きらきら光る破片になる ますます虹色に
猫はあくびをして するりと窓の外へ生きていく
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