私小説/がらんどう
も付いていない一本のビデオテープであった。IMFからの秘密指令でも送られてきたのかと俺はさっそくテープをデッキに入れる。自動的に爆発したりするなよ。残念なことにそのビデオテープに収められていたのは、氷山に激突して沈みゆく豪華客船の中で若き富豪が婚約者をチンピラに寝取られるという筋の古い洋画だった。その映画のラスト近くで若き富豪は両親とはぐれた見知らぬ少女の手を引きながら救命艇へ乗り込むのだが、恐らく続編では成長した少女と恋人を失った富豪との恋物語が展開されるのだろう。だが当然ながら、このビデオテープがどうして俺の郵便受けに放り込まれたのか俺には分からなかった。すでに二度ほど見たことのある映画を再び見ることで、俺は明らかに三時間近くを無駄にしていた。別に無駄でない時間の使い道を知っているわけではないのだが。
そうやって俺は二度目の眠りにつく。
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