夜、幽霊がすべっていった……/岡部淳太郎
 

   (砂浜の上だろうとぎざぎざの密林の中だろうと)
すべっていった
   (世界中どこででも)
そこに何の欲望も
   (なく)
希望や絶望もなく
   (泣く)
最後の眺望は閉ざされ
   (一行を無駄遣いする)
岩石に関する悲嘆だけを乗せて
   (転石の裏のひと押し)
ただ
   (鋼の車輪の最期)
すべるのは幽霊
   (バナナの皮)
人間では
ない
   (無い)

夜明け前の一時間
   (僕は何もしかけたりはしなかったよ)
彼 あるいは彼女は
   (川を渡る飛び石)
どこにでも出没する
   (落ちる果実)
そこに疑問の余地は
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