卵塔場/伊藤 大樹
わたしは わたしのふしくれた手で
ちっちゃな墓をつくる
アラビアじゅうの香料をふりかけても
消えない前科が わたしにはある
一篇の詩をつくるのに
殺してきたあまたの言葉
本当のことを書こうとして嘘ばかり書いてしまう
その二重の罪のために
わたしの名は ひそかに処刑リストに載せられる
どうして人間は
両刃の剣である言葉を
振り回すように進化したのか
ひずみは次第に大きくなって
軋んだ音を立てて
或る日 雪の重みに耐えかねた枝が折れるようにして
実際に死人が出てしまう
言葉をもたないものが一番美しい と知っていながら
わたしたちは 沈黙していると窮屈になってくる
そのため わたしたちはいつも不完全に孤独だ
言葉と生命のスリリングな綱渡りを
強いられたのが わたしへの罰だろうから
わたしは わたしのふしくれた手で
ちっちゃな墓をつくってやる
たまにそれは
詩と呼ばれたりする
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