水面/伊藤 大樹
 
コップのなかに嫉妬が黴のように胚胎する
繰り返し繰り返された僕のなかの苦しみが熱い
折り込まれた唇が放火する
どんな夏も愛さなかった水が沸騰する

土手の夕凪に
あの影は やはり現れない
淋しさだけ飲み込んで
急いで自転車を漕いだ
私は少しずつ
自分がいつかどこかに忘れてきたものの重大さに
気づき始める

いつからか
コーヒーの苦さに馴れたように
夢見ることも
さよならだけが繰り返された
長い疲労の果てに
古びたバス停は ひとつの印象の川になる
私は その川に流れるひとつの彗星になろう
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