恩寵/
伊藤 大樹
雄弁なシベリア
の匂わない活字のS
心は旱(ひでり)つづきだ
街に雨が降っていても
既に不実を知った朝
世界はかつて光だったことを思い出せずにいる
はるかな忘却 白い建築物
否定語の上に築かれた 脆い私の一人称
地図は飛ぶには狭すぎた
世界の枠からはみ出た 私の〈実存〉
シベリアに蕭々と雨が降る
亡霊たちへの 音もない祈りがにわかに始まる
つつましく生きる
虫けらのように
虫けらですらない〈私〉を嗤(わら)え
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