知らない/栗山透
僕らはカフェで向かい合わせに座り、ホットコーヒーとルイボスティを飲みながらそれぞれ本を読んでいる。彼女は女性翻訳家が書いたエッセイ集を、僕は高校生のころに読んだ小川洋子さんの小説を読み返している。
店内にはうすく北欧の音楽がかかっていたが、彼女はイヤホンをして自分の好きな音楽を聴いている。僕は前かがみになりテーブルに置かれた彼女のスマホに手を伸ばし、何の曲を聴いているのか確かめた。彼女はちらっと僕の顔を見たが何も言わずすぐに頁に目を落とす。
画面に表示されていたのは聞いたこともないアーティスト名だった。曲名は日本語でも英語でもない。たぶん実際聴いても僕には分からないだろう。
僕は
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