雨音の詩/栗山透
 
いうのがいちばんよく聴こえない?」
女はゆっくり首を横に振った。
「わからないよ」
女は目に涙を浮かべていた。「リョウ、あなたは私に何の話をしているの?」

涙。雨。
"タタタタ"。

僕は鼻先が触れるくらい窓の近くに立ち、雨がアスファルトや車のボンネットに落ちる様子を注意深く観察した。雨の線が地面に当たると一瞬だけ波紋が見えて、すぐに他の雨とごちゃ混ぜになる。それは雨自身にとってどんな意味を持つのだろうか。

距離。
意味。

部屋の中と外でも雨音の響きが変わるかもしれない。隔たりのない状態で聴く声が最も真実に近いはずだ。

「ねぇ」僕は言う。
「散歩に行こう」
女は真顔で僕を何秒か見たあとでルージュの端をまた少しだけ動かし「いいよ」と答えた。「着替えてくるね。外は冷えるから」

声。

「ありがとう」僕は言う。
「手をつないでいこう」
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