明晰夢/伊藤 大樹
 
不都合な夏の陽に
白い肌は 非情にも灼かれ

沈黙を借りて 何か云おうとしている
あえかな蕾 文明の摘んだ失語症

こんな不条理があっていいのだろうか
うれしさの対概念としての ありったけの惨さで
収奪の歴史に 新たに書き加えられた暴虐の頁(ページ)

白いスクリーンに投影された苦い石
サイレント映画の贅沢な静寂

冥(くら)い東京の空に
落ちかかっている 灰色の足枷

夜には 苦い錠剤を飲み込む
書いても書いても消えない謎
私の〈本当の罪名〉は今 よみがえる ──

処方箋の上の 乾いた文字列
脆い薬の小壜(びん)の底に 沈澱したすずやかな死
眩暈のするような朝に ひとつの卓子(テーブル)と海とが 懸命に交尾(つる)み合っていた

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