流血/葉leaf
 



血が流れた
宇宙のはずれにある
名もない心臓が
包丁で抉られて
抉り返されて
名もない心臓は
他の名もない心臓を愛していたし
他の多くの名もない心臓も
名もない心臓を愛していた
だが愛もまた名もなく力もなかった
名もない心臓は
他の名もない心臓に誠実だったし
他の多くの名もない心臓も
名もない心臓に誠実だった
だが誠実さもまた名もなく力もなかった
名を持ち力を持っていたのは
心臓を抉った包丁だけ
名もない心臓は流血で間もなく死んだ
他の多くの名もない心臓はそれを丁重に祀った
だが弔意もまた名もなく力もなく
歴史に痕を刻むこともなかった
血が流れたという事実
ただ流血という事実
この事実だけは包丁が歴史に刻みこんだ
歴史においては
名もない心臓は犯罪者と記された
名もない心臓はもちろん
何を語ることも許されなかった

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