6月の雨/藤原絵理子
雨の夜の物語は 濡れた
石灯籠に絡みつく 蛇の赤い舌先に
想いは 蛍火にほの暗く 闇に
浮かび上がる 老いた眼は 涙に濡れている
森が深さを増し 光を拒み始める
明るい陽光に踊る 生命のダンスとは裏腹に
秋に散り積もった葉は 朽ちて腐って
暗闇の中に繋ぎとめる 骨と肉の記憶を
耐え続けていた 約束を信じて
花は散り果て 若い緑は眩く跳ね回る
病に痩せた腕は 干からびた枯れ枝になる
病室の天井灯は 濁って頼りなく
虚ろに映し出す 酸素の泡と音にくねるチューブ
今夜もひとり 苦しく美しい世界を後に 旅立っていく
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