のろいのために/片野晃司
 
いま目の前を上り列車がひとつ通過いたしまして、さてさてお集まりの皆々様よ、おんなののろいをみたいとお集まりで、おんなのなみだをみたいとお集まりで、ついでに死ぬおんなや殺すおんな、蛇やら龍やら見せましょか。ちょいと傘の先でホームの上に三角描けばほらうねうねと、よつんばいの改札口から鉄骨の背をずるりずるりと這いずりまわりまして胸元からのど元まで這いあがり鎌首もたげまして、おんなののろいが見たいとな、おんなのなみだが見たいとな、
いま目の前を下り列車がひとつ通過いたしまして、かわいらしくなまめかしく、そちら岸のあなたさまがたをくどきましょうか。ほらほら裾もしどけなく、ひざのあいだに剃刀一枚、はすに構え
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