ある経済/伊織
正当に生きることを肯定してくれる人を買った
最初の一時間で自分が何者になりたいのかを問うて
それからゆっくりと満たしていく
物質ですらない存在に触れては注意深く撫でさする
スイッチではない箇所を理解させる
手を握ってもいいことを知らなかった
それと
ベッドがベルトコンベアではないことも
私、生きている人間だったんだ
与えられて分かった
求められることは
奪われることであった
「これが“普通”だよ。」
その人は告げた
そして色のあるキスを交わし
理解できなかったことを唾液と一緒に飲み込む
普通に生きたくても私には権利がない
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