ゴキブリ/島中 充
 
 部屋の隅で黄ばんだ遮光カーテンの襞に、ひっそりと産むものがあった。
真夜中、昏い教科書を閉じて、少年はそれをじっと見つめていた。一匹のゴ
キブリが、濡れたオブラートのような粘液を排泄しながら、卵を産み付けて
いるのである。うっすらと横に筋が入り、アズキを押しつぶしたような形の
卵。母虫がうみ終えて、ヨタヨタとカーテンからタンスの下へもぐって行く
のを見届けてから、少年はまだ粘り気のある卵を鉛筆で小皿の上にはがし取
った。蛍光灯のスタンドに照らして尖った鉛筆でつつきながら、ひっくり返
し観察した。その行為の中になにか忌み嫌うものを少年は感じていた。母親
に見つからないようにする手淫
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