呪縛/nonya
1km四方のプールの真ん中で
溺れたふりをしている男
水深はせいぜい膝小僧くらい
懸命すぎるバタ足で
足の親指の生爪を剥がしたのは
まったくの誤算だった
プールサイドのデッキチェアで
南京豆を食べている誰か
そこから見る男の姿は
退屈なブラウン運動
双眼鏡を手に取る価値もない
まったくの茶番だった
溺れたふりにも飽きた男が
ヌラリと立ち上がった瞬間
プールの水は跡形もなく蒸発して
1km四方の砂漠になった
今度は乾いた喉を掻き毟る男
嫌というほどプールの水を飲んだのにね
オアシスの展望露天風呂で
葡萄酒を飲んでいる誰か
遠くから聞こえる男の声
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