術後/草野大悟2
 
  定年退職後に、日南海岸沿いの小高い丘の上に建てた家から、広々とした海が見える。うららかな春の日射しを浴びて、陽子が、庭にイーゼルを立て、一心不乱に油絵を描いている。
「陽子、コーヒー淹れたよ。一服したら?」
 縁側から声をかけるが制作に集中している陽子の耳には届かない。
「陽子、コーヒー」大声で言うと、「えっ?」と振り返ってこちらを見つめる。はじけるような笑顔がまるで向日葵のように輝いている。その笑顔が、ぐにゃあっと歪んで泣き顔になり、陽子の姿がすーっと消えたところでいつも目が覚める─

 手術をする日は一時間早めに起き、熱いシャワーを浴び
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