酩酊の夜/竹森
 
・。』と、一行記しただけの手紙を、丸めて、詰めて、蓋をして。異国の砂浜に漂着する事を祈りながら海原にビンを放り投げる様に、この夜の記憶を失くした自分がいつか拾います様にと、街路樹の根元に立てかけておいた。

「風が震えながら、ある噂を運んできたんだ。その噂が本当なら、僕はそれを悲しめばいいのかな?それとも、真実が伝わった事を、喜べばいいのかな?」

襟を広げて中を覗いてみれば、頑なに口を閉ざす二枚貝の心臓を求めて、毛穴という毛穴から湧き出てきていた白い繊毛が、僕のシャツをざわめかせていた。風は、どこにも吹いてはいなかった。嗚呼。不吉な予感が、僕の爪先を導いていく。僕の背中を押しながら、どこまでも、どこまでも、吹き抜けていく。この。酩酊、の。酩酊の、夜。を―――。
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