漂着 (連作8)/光冨郁也
手を離した。女は振り返ってわたしの顔を見ていたが、しばらくして無言で潜っていってしまう。愛想をつかれたのか、それとも島を探しに行ったのか。波が来るたびに、浮かんだり沈んだりを繰り返す。まばらな雨粒が顔に当たる。仰向けになり、ぼんやりと雨空を眺める。冷たい風が吹く。弧を描く水平線に囲まれている。わたしはひとりだ。さびしいが、それもいい。
霧が晴れたころ、海面に尾びれが上がる。回転し、再び顔を出した女が、現れた島を指さす。女はわたしに、もう片方の手を伸ばした。それもいい。
わたしは女の元へと漂着する。
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