平和を釣る/イナエ
西の山に陽が近づいて
1日が終わろうとしていた
男は川面すれすれに延ばしていた竿をあげ
帰り支度を始めた
ゴカイを川に返し 椅子をたたむ
通りがかりの人が声を掛ける
「連れましたかね」
「連れませんな」
男は答ながら魚籠を引き上げ
中の釣り果を川に逃がした
通りがかりの人は
「逃がすのですか 折角釣ったのに」
男は答える
「まあ 狙ったものとは違いますから」
通りがかりの人
「大物狙いですかね」
「まあそんなところで」
男は会話が成り立ったことに
違和感を覚えながらもおかしがった
男は平和を釣っていた
仕掛けなど無くても良いけれど
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