ウサギの階段/竹森
 
おとぎ話が我々を物語る番だ。一本の蝋燭の火の下、髪の毛を上から植え付ける晩だ。我々はつい昨日まで高校生だったようだ。ほんの2日前には母親の乳に夢中で吸いついていたようだ。言葉を憶えたのが本当にたった今のようだ。幾晩を越えて持ってきた記憶はついさっきの午後に、一枚のルーズリーフに一息の間に綴られてみせた箇条書きのようだ。外をみれば夕暮れが山の麓でもったいぶっているようだ。深夜一時を示す壁掛け時計が午後一時を示すかのようだ。我々はほんのつい昨日まで大学生だったかのようだ。ほんのつい昨日まで社会人だったかのようだ。腐臭を発する死体だったかのようだ。「すべて」と発声するに相応しい晩だ。蝋燭が我々の意識とい
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