8月のバガデル /オダ カズヒコ
槽が割れて
熱帯魚たちが
水の泡の中に溢れ出した
もちろん
タイルの床は水浸しだ
このワンルームマンションの
不安げなバランスと
欠けた器の破片に体を反らす
魚たちの群れが
一勢に口を開く
部屋から10分の
ショッピングモールの植え込みで
眠っている仔猫をみつけた
黒ブチの顔を
眠たげにこちらへ向け
プンっと
そ知らぬ顔だ
首に巻いた赤いスカーフも
もう真っ黒で
胸の中に彼女を抱き上げると
ツンと
尖った耳を
僕の頬にすりつけ
にゃーお ひと鳴き
適当なサイズの水槽をショップで買うと
車に乗せた
バタンっとドアを閉めると
後部座席でブチ猫の彼女が
水槽に首と右手を突っ込んで
がりがりと
爪で内側を引っ掻いてる
「帰るまでに その水槽壊しちゃうなよ」と僕は
バックミラー越しに語りかけ
キーをひねりエンジンを吹かすと
朝食の時の
マーマレードが切れていたことを思い出し
ウインドウガラス越しに外をみつめた
真夏の25歳
それは8月のバガデル 僕らの思い出
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