美香抄2/オダ カズヒコ
 


タクシーは
熱帯植物園の前で止まって
僕らを降ろす

片方の手で
美香の腰を抱き
もう片方の手で
傘を差す

小走りに肩をすくめ
ロビーへ飛び込むと
横殴りの雨は
彼女のブラウスに
飛沫をつけていく

小笠原諸島の
乾いた雨音
掴んだ腕をひっぱり
美香は売店でペットボトルを買うと
園内の一面の芝生に
放たれた影をみつめる

ペットボトルの口に
美香のかすかな息がひしめく
海面から上がった
ナマコのようなルージュ

ガラス窓の向こうで
雨が動いていて
ソファの上にドンっと
深く腰を掛けた彼女が
ペットボトルのキャップを
うんと深く締めると

手のひらから樹海が沸く
頭から蔓が伸びる
ソックスから根が這う
僕はあわてて彼女の手をとり
耳たぶにキスをして
それから下着を下ろして
おでこから出た枝に
唇から花がつたい
膝上のミニの
スカートの下から手を入れ
かわいい胸の上で
蕾が芽吹くと

広い中庭で
ふたりして上着の中
身を屈め荒い息しながら
ほうほうのていで
ロビーへ駆け込んだ

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