雪の瞳に映るのは/石瀬琳々
 
雪の瞳に映るのは
軽やかな窓
音もなく降る白い彼方の光


   ひとつの塔に夜明けが訪れた
   沈黙はただ安らぎであるかのように
   いつか鳴る(それは予感めいた)鐘の響きを待っている
   幾月も幾年も


雪の瞳に映るのは
冬枯れた薔薇
静かに眠る古い庭の蒼さ


   やさしく触れた指を覚えている
   それだけが夢のよすがであるかのように
   めぐるあの春の音楽のような芽吹きを感じている 
   時を越えて


雪の瞳に映るのは
忘れられた本
誰もいない図書館の片隅


   少女は振り向いて
   何も言わずに微笑んだ
 
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