雪花/一筆
 
買ってくださいとうつむき加減に
冷えた指先は白い花を思わせた
不幸を売り物にできる時代じゃない
他をあたれよと背を向けたとき
飛ばされた風に散らばる花片
見開かれたままの瞳は残像をとらえ
古い記憶の傷が不意に蘇る
そんなつもりはまるでなかったのに
ついておいでと促されるままに
雪の道に足跡はふたつ
吐く息が白く曇る窓に
読めない文字で名前を書いた
生まれた国はもうないのだと言う
言葉は話せてもどこへも行けない
抱きしめる以外にしてやれることもなくて
自分への言い訳に金だけを握らせた
ただそれだけの出来事だったのに
今も雪の日にふと思い出す

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