水葬/智鶴
青く見える空間の端で
一つだけゆっくりと時が流れる部屋があったんだ
空は血に、海は点になって
音もなく流れる砂のような
体温の無い柱が何本も立っていて
その部屋には白い君がいて
僕はただ、その不自由さを眺めていたんだ
空に腹這いになって泳ぐ魚達が
皆太陽に憧れているように
いつの間にか失った水面を探して君は
その狭過ぎる世界に迷い込んだ
碧色の酸素に身を泳がせて
天使が落して行った
その透明な環を遊ばせていた
僕に何を忘れさせたいんだろう
触れられない壁が冷たくて
手を伸ばしたことも無意識に
あぁ
きっとこのまま何処にも触れられないんだなぁ
君の海は八つの点で繋がって
有る筈の無い壁を作り上げた
美しく、皮肉に磨き上げられた透明は
何者の体温も拒んで
ある日の
魚達の色が消えて
ある日の
君の色も消えて
浮かび上がるように沈んだ君の
諦めたように吐き出した泡が
それだけで美しい
八つの点で区切られた海の
滲むほどの透明の底で
とん、と音を立てて君が沈んだとき
始めて
寂しいなぁ、と
溜息が漏れた
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