節分/蒼木りん
夜になると風が煽るよ
「春が来る」と訓えているのは
ほかならぬ
このびゅうびゅうの風で
たぶん
もう雪は降らない
冬は懸命に寒さを装ったけれど
あの雪を産み落としたのが精いっぱいで
今年も力尽きるんだろう
雪
雪が降り積もるのが
奇跡や伝説になるのは
何年後だろう
きのう
梅の花の匂いを
誤作動で脳がファイルから出してくれたものだから
排泄みたいな他人の戯言なんて
大したことでないと思えた
薄いガラス戸一枚の隙間から
風呂場に風が吹き込んだ
遠い子供時代
タイルの模様の中に一個ずつの世界を見て
ぬるむ湯に浸かりながら
竈に薪をくべてもらう
裏の杉の林が轟々
火の粉が飛ばないだろうか
森の主は
まだあそこに住んでいるかしら
ときどき
寒いわたしの家に
悪戯をしに来た幾つかの声は
精霊だったのだろうか
天井の隅にいる神様
柱の上のこの豆は
いつの節分のものですか
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